移動(動き)とは空間内の位置が変化することです。この変化には時間がかかります。つまり、空間次元の位置変化には時間次元の位置変化も伴います。空間次元の位置変化は方向が定まりません。たとえ、空間が1次元(線)であっても移動には二つの方向がありえます。空間が2次元(平面)であれば、360度どの方向にも変化する可能性があります。空間に高さもあれば、さらに位置変化の自由度は高まります。一方、時間は1次元で、しかもその位置変化の方向は一つしかありません。時間次元で未来に向かって位置変化する中で、空間次元の位置がさまざまな方向に変化するのが移動(動き)の姿です。 地球面上の移動体の観測データであるGPSデータは、時点と地点が常にペアになった時空間データです。各データは時間の次元と2あるいは3個の空間次元(経緯度プラス標高)を持っています。ある測位地点にはそれに対応する測位時点が必ずあり、ある測位時点にはそれに対応する測位地点が必ず存在します。このように測位点はつねに地点であると同時に時点でもあるわけです。しかし、時点と地点の関係に対称性はありません。なぜか。それは、ある測位時点に対応する移動体の位置(地点)はただ一つしかないのに対して、その位置に対する測位時点は一つに限定されないからです。このことは、空間的な動きがない場合を考えれば容易にわかります。 GISによる分析に代表されるように、これまでGPSデータの分析はもっぱら空間を基盤として行われてきました。しかし、この手の分析では時間の情報を十分に活かすことができません。よく行われるのは、ある期間内の測位地点の分布や軌跡の形を分析するというものです。期間という時間幅を使ったり、測位地点の間を時間順に結んだりしているので、時間の情報が使われていないわけではありません。しかし、動きの表現に必要な時間の流れは無視されています。結局、空間を基盤とした分析が見ているのは動きではなく、動きの痕跡にすぎません。この手法による動きの把握には限界があります。空間から時間を見通すことはできないからです。 一方、時間からは空間を見通すことができます。各時点に全空間があるからです。動きの理解には時間を軸とする分析が必要になります。
一部の動きは時間軸上の各時点で、その瞬間の空間位置を数量化するだけで表現可能です。例えば、垂直方向の動きやある方向にどれだけ進んだか、などの1次元の動きです。しかし、時間幅を取らないと捉えられない、2次元的な動きもあります。これまでよく行われてきたのは、連続する2測位時点間の位置の変化量、つまり単時間あたりの移動距離の数量化です。さらにこれら2点を結ぶ線の方位(ベクトルの方向)の数量化なども行われてきました。しかし、これらの結果を見ても、どんな動きがあったのか、よくわかりません。 本システムでは、時間軸上の表現を動きの理解につなげるために、動きの数量化やその表現で新たな試みをしています。一つは、任意の長さの評価期間や評価距離で計算できる数量化手法を開発したことです。もう一つは複数の数量化の結果を一つの図に重ねて表現したり、時間軸を揃えた複数の図を並べて表現できるようにしたことです。重心距離法では、評価期間を与えると、その期間の移動範囲の大きさが数量化されます。そして、評価期間の異なる結果を一つの図に集約することで、複数の時間スケールでみた移動の大きさの変化が表現できるようになりました。時空間密度法では、評価期間と評価距離両方を評価の起点とともに与えることで、各時点から見た過去と未来の一定時間内の動きが空間的集中度(密度)として数量化されます。これにより、ある時空間スケールでみた近場移動と距離移動の切り替わりが明確に図として表現できるようになりました。