HOME/Projects/ Copyright @ Hirofumi Hirakawa. All Rights Reserved. 最終更新日: 2024年02月27日

ウサギ類の糞食

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文献調査により、
糞食行動(自分の糞を肛門から直接口に移して食べる行動)は中小型の植物食動物で広く観察されていることがわかりました。
明確に形の異なる軟糞と硬糞を作り分けるウサギ類の糞食は、なかでも最も高度に発達していると考えられます。
動物食のトガリネズミの仲間で「糞食」とされてきた行動が実際には「糞食」ではないらしいことも明らかになりました。

解説

広く文献を調べると、大はカピバラやビーバー、小はハタネズミなど、ウサギ類以外の中小型の植物食動物でも糞食行動がよく観察されていることがわかりました。ウシなど、体の大きな植物食の動物は前胃発酵動物と呼ばれ、大きな発酵槽が胃の前にあって、反芻(発酵槽の食物を口に戻して咀嚼する行動)も行いながら、胃に到達する前に消化しにくい植物繊維の消化を図ります。一方、そうした大きな消化器官を持てない、中小型の動物たちは後腸発酵動物と呼ばれ、小腸の一部、盲腸や結腸などで発酵を行います。しかし、そこでできた発酵生産物をこれに続く大腸では十分に消化吸収しきれないようなのです。そのため、これを食べてあらためて胃や小腸で消化吸収を図る行動、すなわち糞食行動が発達したと考えられます。しかし、ウサギ類のように明確に形の異なる2種類の糞(硬糞と軟糞)を作り分ける動物は他にいないようでした。糞食を伴う消化システムはウサギ類で最も高度に発達していると考えられます。

糞食に関する文献の中にトガリネズミの仲間についての報告もありました。ただ、他の動物はすべて植物食なのに対して、トガリネズミの仲間だけ動物食(虫やミミズ)でした。詳しく調べたところ、直腸が肛門からめくれ出て、そこに見られる白いミルク状の液体を舐める行動がトガリネズミの仲間で広く観察されていることがわかりました。しかし、この液体が糞に類するものかどうかは未確認で、むしろ、そうでない可能性が高いと思われました。トガリネズミの研究者たちはこれを安易に糞食と解釈していた、あるいは、言葉本来の意味を吟味せずに糞食を意味するcoprophagyあるいはrefectionという言葉で表現していた、ことになります。そこで、この行動は多くの中小型植物食動物に見られる糞食とは異なること、食べているものの正体は未確認で糞ではない可能性が高いこと、を指摘し、この行動を「rectum-licking behaviour(直腸なめ行動)」と呼ぶことを提案しました(下記文献3)。
==> 外部サイト参照:岡山理科大:ジャコウネズミの腸舐め行動(動画1動画2動画3

関連論文

  1. Hirakawa, H. 2002. Supplement: coprophagy in leporids and other small mammalian herbivores. Mammal Review 32: 150-152. (Pdf file - 64 kb)
  2. Hirakawa, H. 2001. Coprophagy in leporids and other small mammalian herbivores. Mammal Review 31: 61-80. (Pdf file - 492 kb)
  3. Hirakawa, H. and W. Haberl 1998. The behaviour of licking the everted rectum in shrews (Soricidae, Insectivore). Acta Theriologica 43(2): 113-120. (Pdf file - 10.4 MB)
  4. Haberl, W., K. Koyasu, H. Hirakawa and R. M. Baxter 1998. A note on "rectum-licking" in shrews (Soricidae, Insectivora). Journal of Growth 36(2): 77-81.
  5. Hirakawa, H. 1996. Hard faeces reingestion in the mountain hare. Zeitschrift fur die Zaugetierkunde 61: 379-381.(Pdf file - 1.9 MB)
  6. 平川浩文 1996. ウサギ類における硬糞食とその生態学的意味. 北海道大学審査学位論文. 第5084号 1996年12月25日 60 pp. (18図、3表).
  7. 平川浩文 1995. ウサギ類の糞食. 哺乳類科学 34: 109-122. (Pdf file - 476 KB)