硬糞は、私たちが野山で目にするウサギの糞です。文字通り硬くて、水分が少ないので軽く、マーブルチョコレートのような形が特徴です。ほとんどにおいもありません。 一方、軟糞は普通目にすることができません。すべて肛門から直接食べられてしまうからです。軟糞を観察するには、ウサギの首に大きな円盤状の襟を付け、ウサギの口が肛門に届かないようにしてやります。そうすると、ウサギは糞を食べることができなくなるので、出てくる糞を観察できます。その中に、いつもと違う糞、軟糞があることがわかります。 軟糞の形は、ウサギの種類によって異なります。 カイウサギやその先祖アナウサギの仲間(rabbit)の軟糞は丈夫な粘膜で覆われていて、丸いカプセル状をしています。軟糞はかまずに呑み込まれるので、胃の中にそのまま入ります。酸性の強い胃の中でもしばらくそのまま丸い形を保っています。その間、糞内部でさらに発酵が進みます。 一方、野ウサギの仲間(hare)の糞は、そうした粘膜がなく、不定形でべちゃべちゃしています。そしてにおいが強烈です。においは発酵食品につきものですが、軟糞のにおいも相当なものです。
ウサギは昼間休息中、ほとんど腹這い(はらばい)になって休んでいます。しかし、糞食に際して、まず前足をたてお尻と後ろ足を地面に付けてすわります。この状態でいてしばらくすると、やおら頭を下げ下腹部に口を近づけます。すると、肛門が前に突き出されて、口と肛門が接触します。そして、ウサギは出てくる糞を肛門から直接口に受け取ります。ここまでの動作は、軟糞食も硬糞食も同じです。 その後、軟糞はほとんどかまずに(口を少しもぐもぐさせる程度で)呑み込んでしまうのに対して、硬糞はしっかり咀嚼してから呑み込みます。リズミカルに顎を上下させる咀嚼動作は長いときには60秒以上続きます。糞食行動を観察していても、肛門と口が接触しているので、糞を直接見ることはできません。しかし、この行動の違いから食べている糞の種類がわかります。 この他にも違いがあります。軟糞食では糞を1回口に受けると、呑み込んですぐ元の腹這いの姿勢に戻ってしまいます。1回の軟糞食にかかる時間はせいぜい数十秒です。一方、硬糞食では、口に受けて咀嚼する動作が何回も繰り返されます。このため、硬糞食では腹這いの姿勢に戻るまで10分以上かかることがあります。
硬糞と軟糞を作り分ける仕組みは結腸にあり、結腸分離機構(Colonic Separation Mechanism)と呼ばれています。 結腸は盲腸の後ろに続く器官です。結腸には、盲腸の中で混ぜ合わされた発酵中の食物が少しずつ押し出されてきます。そのため、盲腸で発酵後の食物は徐々に結腸の中を進みます。 分離機構が働いているとき、結腸の壁にある細かいひだが、食物の動きと逆に、盲腸の方に向かって波打つように動いています。この動きによって、食物中の微細片や発酵菌、水分は、盲腸へ戻されてしまいます。その結果、結腸を進んだ食物は、微細片や水分の少ない粗大片の塊になります。これが硬糞です。 分離機構が働きをやめると、盲腸から結腸に押し出された食物はそのまま結腸・直腸を進んで、軟糞になります。ですから、軟糞は盲腸内容物と成分がほぼ同じです。分離機構が働きをやめるのは、ウサギが明け方休息を始めた頃で、その後、しばらく出てくる硬糞は、それ以前に分離機構によって作られ、結腸・大腸に残っていたものです。分離機構はお昼頃にまた働き始めます。