植物食哺乳類の採餌生態

    最終更新日: 2006年11月4日
 植物食哺乳類の採餌行動にどのような要因が働いたとき、どのような食物選択が行われるか、モデルで検討しています。採餌や消化に関わる制約を組み合わせてモデル化し、栄養同化速度が最大になるような条件下でどのような食物選択が行われるか、制約条件を動かしながら検討しました。

解説

採餌行動のモデル研究

植物食哺乳類の食物選択で考慮すべき重要な要因に消化があると考えられています。採餌速度(同化可能エネルギーの採り込み速度)のみを考慮した餌選択の基本モデルに消化の制約(各種食物の消化にかかる時間や消化器官の容量)を条件として加えたとき、どのような食物選択が行われるか検討しました。その結果、各種食物の選択はall or nothingで起こること、しかし、制約条件によって選択基準が連続的に変化するので、各種食物間に直線的な選好順位はつけられないことがわかりました。採餌条件がよいとき(食物が豊富にあるときや採餌に割ける時間が長いとき)は、消化の制約がきつくなるため、採餌速度が落ちても消化しやすい(質のよい)食物を限定的に選択します。採餌条件が悪化すると(食物量が少ないときや採餌に割ける時間が少ないとき)、消化の制約はゆるくなり、消化のしやすさ(質の良さ)よりも効率よく量を得ることができる(同化可能エネルギーの採り込み速度が高い)食物を幅広く選択すると予測されました(Hirakawa 1997a)。
 以下は、その他、このモデルと関連した仕事です。
 ある特定の栄養成分の摂取にかかわる制約を考慮したPulliam(1975)の古典的な採餌モデル、Stephens and Krebs(1986)がそれを特定の毒成分の摂取にかかわる制約のために修正したモデルは、モデルの表現が根本的に矛盾していることを指摘しました(Hirakawa 1995)。モデルを正しく構成すると、Hirakawa (1997a)と同じ形のモデルになります。彼らは、そのモデルに基づいて、同じ食物でも食べたり食べなかったりする(partial preference)ことがあると予測しましたが、これは誤りであることが明らかになりました。
 さらに、消化の制約を考えたVerlinden and Wiley(1989)のモデルは、すべての食物が消化管内を24時間で通過することを暗黙の前提にしなければ成り立たないことを指摘しました(Hirakawa 1997b)。Verlinden and Wileyは、そのモデルに基づいて、消化の制約があるとき消化効率のいい食物が優先的に選択を受けると予測しました。しかし、結局、彼らは、食物間で可消化エネルギー量のみが異なるとき、どう選択が行われるかを予測したに過ぎません。
 現在、取り組んでいる課題は、さまざまな教科書に紹介され非常に有名なBelovskyのLP採餌モデルが無効であると言う証明です。 BelovskyがLP採餌モデルの有効性を「実証」して見せた数々の華々しい業績はすべて無効だと考えています。それは論理的に矛盾したデータの処理・測定・引用が多数行われているからです。また、LPモデル自体も採餌モデルとしては有効でないと考えています(Hirakawa 1998)。

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