HOME/Projects/ Copyright @ Hirofumi Hirakawa. All Rights Reserved. 最終更新日: 2024年02月27日

ウサギ類の糞食

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この研究では、ウサギが「軟糞」だけでなく「硬糞」も日常的に食べていることを発見し、糞食の全体像を明らかにしました。

解説

ウサギ類は「軟糞」と呼ばれる特殊な糞を食べることが以前から知られてきました。軟糞は、食物が盲腸で発酵したもので、ビタミンやタンパク質に富んでいます。つまり、軟糞は栄養豊かな発酵食品のようなもので、軟糞を食べないとウサギは生きていけません。軟糞食はウサギにとって欠かせない消化過程の一部なのです。

ところが、この研究でウサギは「硬糞」も日常的に食べていることが明らかになりました。硬糞は、消化が難しい粗い食物片が盲腸から選択的に排出されたものです。硬糞はいわばゴミの塊です。では、なぜウサギは硬糞を食べるのでしょうか。

ウサギは夜行性で、夜間は食事の時間、植物の葉や茎、芽などを食べ歩いています。この間に出す糞は硬糞で、これを食べることは普通ありません。明け方になると、ウサギは休息に入ります。休息を始めてしばらくの間(1時間ほど)に出る糞は硬糞ですが、その後軟糞が出始めます。お昼過ぎると再び硬糞が出始め、夕方、夜間の活動を開始するまでこれが続きます。このように、日中休息の間には軟糞だけでなく、硬糞も出ます。ウサギはこれらを残らず食べてしまいます(図参照)。

よく観察すると、軟糞と硬糞の食べ方には違いがあります(動画参照)。どちらも直接肛門に口を付けて食べますが、軟糞はかまずにすぐ呑み込んでしまうのに対し、硬糞は呑み込む前に長い時間しっかり咀嚼(そしゃく)します。ウサギはこの咀嚼によって、本来消化・発酵が難しい粗大片を、発酵しやすい微細片に変えています。日中休息時のウサギは、新しい餌を採ることはできません。しかし、その代わり、硬糞をよく咀嚼して食べることで、ゴミを宝に変えているわけです。

結局、ウサギは一日中食べて、一日中糞を出していることになります。夜間は植物を食べ、出す糞は捨てています。日中は、出した糞をそのまま餌として食べています。日中休息時は、栄養価の高い食物(軟糞)の消化吸収、栄養価の低い食物(硬糞)のアップサイクルの時間なのです。

硬糞食は夜間に行われる場合もあります。夜間、悪天候など何らかの理由で餌が得られないと、ウサギは硬糞を食べてしのぎます。これは非常食としての役割を担っていると考えられます。ウサギは絶食に強いことが知られています。これは、硬糞をリサイクルすることで、食物をとことん無駄なく利用できるからだと、私は推測しています。

==> もっと詳しく知りたい人は補足へ。

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